遺言書作成ガイド:種類、効果、書き方

遺言の重要性とその法的効力

遺言とはお亡くなりになる方が生前に作っておくものですが、亡くなった時に効力が発生するもので、その人の最後の意思表示となる大切なものです。
遺言と似たものに遺書がありますが、遺書には法的効力はなく、個人的な思い、メッセージ、感謝の言葉などを記した文書で、主に感情的・個人的な内容が含まれます。
また法的効力が場合もあるリビングウィルというものがあります。
リビングウィルとは、自身が病気や事故などで意思表示ができない状態になった場合に備え、あらかじめ自分の医療・介護に関する希望や指示を記した文書です。あくまで亡くなる前のご自身のことがらについて具体化させる文書になり遺言とは異なります。

遺言で決められる内容について

遺言は民法で定められた形式に従って作成しなければなりません。その形式を満たしている場合、一定の事項について法的な効力を持つことになります。

遺言で決められる事項については以下の項目があります。
◯遺産分割方法の指定
 例)自宅の土地建物を長男に、預金を次男に相続させる
◯相続分の指定
 例)AとBに財産の1/2ずつを相続させる
◯遺贈の指定
 例)相続人でない人に財産を残すことができる。
◯遺言執行者の指定
 遺言書に基づき手続きを実行する人を指定できる。
◯子どもの認知を行う
 遺言で認知することにより、相続権を持つことができる。

以上の事以外で、法的拘束力はないものの、家族に対する感謝やメッセージ、遺産分割方法の理由などを付言事項として書くこともできます。

遺言の種類と内容

遺言には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つがあり、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つが一般的な形式で広く受け入れられています。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言のメリットとデメリットについてお話します。
まず、自筆証書遺言のイメージしやすいメリットとしては、以下の点が挙げられます。
1.手軽に作成できる: 自分でいつでもどこでも作成できる
2.費用がかからない: 公証人や専門家を依頼する必要がないため、費用が抑えられる。
3.内容を秘密にできる:他人に内容を知られることなく遺言を作成・保管できる。

一方、デメリットも存在します。
1.保管のリスク: 自分で保管しなければならず、紛失の恐れがあります。また、他人に見られたり、  改ざんされる危険性もあります。
2.発見されない可能性: 相続人が遺言を見つけられないリスクがあります。
3.検認手続きの必要性: 自筆証書遺言の場合、相続人が家庭裁判所で検認手続きを取らなければなりません。検認とは相続人の立ち会いのもとで裁判所が遺言を開封し、内容を確認する手続きで、相続人にとっては手間がかかるものです。
4.形式不備のリスク: 遺言の内容があいまいだったり、形式に不備があると遺言が無効になる可能性があります。

これらのメリットとデメリットを理解した上で、自筆証書遺言を作成するかどうかを慎重に検討することが重要です。

公正証書遺言のメリット

一方、公正証書遺言であれば、自筆証書遺言のリスクは少なくなります。原則として、公正証書遺言は公証役場で公証人の前で行います。遺言者が遺言の内容を口頭で説明し、その内容を公証人が文書にまとめて作成するのが公正証書遺言です。
公正証書遺言のメリット
1.原本の保管
公正証書遺言の一番のメリットは、公証役場で遺言の原本を保管してくれることです。手元には、原本と同じ内容の正本や謄本を持つことができますが、万が一それを紛失しても、公証役場に原本が保管されているので安心です。
2.改ざんのリスクが低い
公正証書遺言は厳格な様式で作成されるため、改ざんのリスクが非常に低くなります。
3.検認手続きが不要
遺言者が亡くなった後、検認という手続きが不要になります。これにより、遺言執行がスムーズに行えます。
4.形式面での無効リスクが少ない
公証人が遺言を事前にチェックしてくれるので、形式面で無効になるリスクが減ります。

公正証書遺言のデメリット

1.手数料がかかる
  公正証書遺言を作成する際には、内容や財産に応じて公証役場の手数料がかかります。
2.証人の立ち合いが必要
  公正証書遺言を作成するには、2人の証人の立ち合いが必要です。証人は保証人のように金銭的な負担をお願いする訳ではないのですが、遺言の内容を知られることになるため、証人をお願いするのが難しいと感じるかもしれません。
3.近親者が証人になれない
  法律で一定の近親者は証人になれないと決まっています。そのため、証人を見つけるのが難しい場合には、公証役場で証人を手配してもらうこともできます。

このように、公正証書遺言にはいくつかのメリットとデメリットがありますが、遺言を確実に残したいと考える場合、公正証書遺言は非常に有効な方法です。

自筆証書遺言の保管制度

 公正証書遺言だと費用がだいぶかかりそうだし、自筆証書遺言だと紛失したり、検認手続きもたいへんだし、どちらかよいのか判断が難しいですね。
実は2020年7月から始まった新しい制度がございまして、これは、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるという制度で、自分で手書きした遺言書を法務局に申請することで、法務局が形式面のチェックを行い、遺言書を安全に保管してくれるものです。

この制度を利用することで、遺言書が紛失したり改ざんされたりするリスクを大幅に軽減することができます。また、遺言者が亡くなった後に遺言書が見つからないという心配もありません。法務局に預けられた遺言書は厳重に保管され、遺言者の死後、相続人が法務局で遺言書の存在を確認し、適切に遺言の内容を確認できるようになります。

その他のメリットとしては、遺言者が亡くなった後に必要となる検認手続きが不要になります。これにより、相続手続きの負担が軽減され、相続人にとっても手続きがスムーズになります。遺言書の形式面のチェックが行われるため、法律に適合した内容であるかを確認でき、遺言書の不備によるトラブルを未然に防ぐことができます。

ただし、この手続きにはいくつかの注意点があります。まず、法務局での手続きを行うためには、事前に予約をしなければなりません。そして、必ず遺言者本人が直接法務局に出向く必要があります。また、遺言書の形式面のチェックは行いますが、遺言書の内容のアドバイスまではしていただけません。そして、手数料として遺言書一件につき3,900円がかかります。
このように多少のデメリットもありますが、手数料を支払ってでも、遺言書の安全性や確実性が大幅に向上するため、この制度を利用する価値は非常に高いです。

このように、自筆証書遺言の保管制度を利用することで、遺言書の紛失や改ざんのリスクを軽減し、遺言執行が確実に行えるようになります。相続手続きの負担も軽減されるため、遺言を確実に残したいと考える方には非常に有効な手段です。この制度の導入により、遺言書の安全性と信頼性が大幅に向上し、多くの方々が安心して遺言を作成できるようになることが期待されています。

遺言書の書き方

公正証書遺言を作成する場合、公証人と相談しながら進めるため、書き方に困ることはほとんどありません。しかし、自筆証書遺言を作成する場合は、自分で手書きしなければなりません。
自筆証書遺言には、民法で定められた厳格な書き方があります。まず、遺言書のタイトル、内容、全文、日付、署名のすべてを自筆で手書きする必要があります。また、押印も必要ですが、これは実印でなくても構いません。
注意点として、パソコンなどで作成した文書に手書きで署名や押印をしても、有効な遺言とはなりません。必ず、全文を自分で手書きしなければなりません。また、日付を「何年何月吉日」と書いてしまうと有効にならないため、「何年何月何日」と具体的に記載する必要があります。
さらに、訂正方法についても細かく決まっており、その様式に従わないと遺言書全体が無効になってしまうことがあります。具体的には、訂正箇所を二重線で消し、訂正内容を明記し、訂正したことを示すために署名押印が必要です。
また、夫婦連名で一つの遺言書を書くことはできず、必ず一人ずつ作成しなければなりません。

遺言書の内容についての注意事項

遺言書の内容としては、自宅の不動産を長男に相続させるなどの具体的な財産の分配方法を記載しますが、この際に財産の特定を正確に行う必要があります。不動産の場合、不動産登記簿謄本を用意し、土地であれば、所在、地番、地目、地積などを正確に記載します。預貯金の場合、通帳を確認しながら「〇〇銀行△△支店、普通口座番号◯◯」と具体的に書く必要があります。
これらの記載が曖昧だったり間違っていたりすると、遺言者の意思が伝わっても実際の手続きが進まない可能性があります。例えば、多くの地域では住所と土地の地番が異なることがあるため、不動産を特定する際には住所の番地ではなく地番を記載することが重要です。
また、文章表現についても注意が必要です。「Aに渡す」や「Bに与える」といった曖昧な表現は避け、「相続させる」や「遺贈する」といった正確な表現を使う方が良いでしょう。これにより、遺言の内容が明確になり、相続手続きがスムーズに進むことが期待できます。
これらの点に注意して、自筆証書遺言を作成する場合は、法律に従った正確な書き方を守ることが重要です。

自筆証書遺言の新しいルール

このように自筆証書遺言は、以前は、遺言の全てを自筆で書かなければならず、特に財産目録などが多い場合には、書くのに非常に手間がかかるという課題がありました。しかし、2019年1月13日の法改正により、自筆証書遺言の書き方が一部緩和されました。

新しい制度では、遺言の本文は依然として自筆で書く必要がありますが、財産目録については手書きでなくても良いことになりました。具体的には、パソコンで作成した文書や、不動産登記簿謄本、通帳のコピーなどを添付することが認められています。ただし、これらの目録の各ページには遺言者の署名と押印が必要です。

この改正により、遺言書の作成が大幅に簡便になり、特に多くの財産を持つ遺言者にとっては非常に便利になりました。手書きで詳細な財産目録を作成する必要がなくなり、パソコンを使って効率的に目録を作成できるため、時間と労力を節約できます。

また、前述のとおり、法務局による自筆証書遺言の保管制度も新たに導入され、遺言書の紛失や改ざんのリスクを大幅に減らすことができます。この保管制度を利用することで、遺言者が亡くなった後の手続きもスムーズに進みます。

このように、自筆証書遺言の書き方が緩和されたことで、遺言書の作成がより簡単になり、多くの人々が安心して遺言を残せるようになりました。

さいごに

遺言についてご説明してまいりましたが、遺言書を作成することの最大のメリットは、相続人間の争いを未然に防ぐことだと思います。相続人同士の話し合いがまとまらず揉めてしまったり、自宅の登記名義が変更できないまま放置してしまうといった問題が生じることがあります。こうした事態を回避するために、事前に準備をしておくことが重要です。

遺言書があると手続きの負担が軽減されることも多く、そもそも相続人間でトラブルが起きにくい方でも、残されたご家族の負担を減らす目的で遺言書を作成することは非常に効果的です。また、遺言書は、相続人でない方に財産を残したい場合にも有効です。大切な意思を明確に伝えるために、遺言書を作成しておくことが望ましいです。

実際に遺言書を作成する際には、さまざまな背景・状況や法制度が関わってきます。例えば、誰に遺言の手続きを任せるか、相続させたい人が自分より先に亡くなった場合どうするか、相続財産に漏れがないかなど、多くの点で悩まれることがあるでしょう。また、相続人に保証されている最低限の遺産相続分のことを「遺留分」といいますが、この遺留分に関しても、遺言の内容が適切かどうかを確認するために専門的な知識が必要です。

このような遺言に関する悩みや不安をお持ちの際は、ぜひ専門職にご相談ください。大切な意思を正確な形で残すために、私たち行政書士が少しでもお力添えできればと思います。どうぞお気軽にご相談ください。